教育回診とは

教育回診とは、何だろうかと考えてみる。

筆者は昨年度の1年間、とある地方の病院で総合内科のスタッフとしてもう一人の総合内科医とともに研修医の回診を担っていた。

一年目研修医が0~1名、二年目研修医が常に1~2名、4年目研修医が1~2名いる状態で、スタッフ2名を合わせたグループで40~50人の患者を担当していた。

 

その一年間で感じた教育回診とは、

1. 治療方針の確認=患者の安全

2. 研修医・医学生教育(臨床推論、鑑別疾患の考え方、臨床における決断力、臨床経過に応じた治療方針の転換、そのタイミング)

 の2点に集約されるだろう。

 

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Ann Intrern Med.1997;126:217-220.

この論文、須藤博先生のブログで全文和訳してくれている。

blog.goo.ne.jp

とても示唆に富む論文で、現在の医療で足りない大事な部分が書かれていると思う。

それは、

・ 指導医が患者との接し方を見せること(プロフェッショナリズム)

・臨床推論の考え方を教えること

・身体所見の考え方、とり方を教えること

 

医学生は授業で、「患者のベッドサイドに行く前にはまずアルコールで手指を消毒して、カーテン越しにまず患者に今入っていいか聞いて、そしてカーテンを開けるのです。」と教えられる。しかし、それを耳で聞いたり、頭の中で考えているだけでは全く実感をもった印象となっていない。実際、患者のもとに行き、実践している「姿」をみて学ぶのだろう。これが「モデル」であり、良き指導者が「ロールモデル」となるのだ。

ベッドサイドでの教育回診はこの「モデル」を示すという重要な役目がある。

 

 しかし、昨年9月、BMJからこのような論文が出版され、著者は今後の「病棟回診」のありかたについて意義を唱えている。

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BMJ 2017;358:j4390 doi: 10.1136/bmj.j4390

病棟回診という概念は1700年代にオランダの医師であるHerman Boerhaaveという先生が最初に記述したらしい(基本的に病棟回診は教育回診のことを指していると私は考える)。その頃はとても画期的な考え方だったと。しかし、時代はすすみ採血結果の種類も画像検査の種類も格段に増え、多くの情報を即時に処理しないといけない。その中で、病棟回診を行う意義はあるのか、変わっていかなければならないのだろうと提唱している。

 

次世代の、いや今の時代に即した教育回診とは何だろうか。

今の教育回診は2つに分けられる。

1.カンファレンス室や電子カルテの周りで行われる「テーブル回診」

2.実際に患者のもとへ行く「ベッドサイド回診(病棟回診)」

 

テーブル回診では、研修医・医学生のプレゼンテーション、そして鑑別の考え方、治療方針の確認、予期できる問題とその対応方法を確認できる。ここで、彼らは臨床に必要な臨床能力を培っていくのだろう(頭の中)。

ベッドサイド回診(病棟回診)では実際に患者のもとへ行き、彼らは患者との接し方/身体所見の取り方/実際の所見を学ぶ。

 

実際、私は何度も何度も大動脈弁狭窄症の患者の遅脈を触診させてもらうことで、「遅脈」がわかるようになった。教育回診は明らかに研修医・医学生の教育の面では意義があり、研修医から回診がないと心配という言葉はよく耳にする。ただ、確かに時間がかかるのは事実である。それを分かったうえで、次世代にバトンをつなぐという意味でも時間をかけて教育しなければならない。

もっと言うと、教育に時間をとれるような職場環境を構築しなければならないとつくづく思う。