研修医は離島医療で何を学んでいるのか?

論文の紹介です。

「研修医は離島医療で何を学んでいるのか?」

著者は太田龍一先生。現在は島根県雲南市立病院の地域ケア科にいらっしゃるようです。

【略歴】(雲南市立病院ホームページより 雲南市立病院(公式ホームページ)
2010年 大阪市立大学医学部卒業
初期臨床研修 沖縄県立中部病院
2012~2015年 沖縄県南大東診療所所長
 

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J Rural MEd 2018;13(1):11-17

 

Journal of rural medicineというのは、日本農村医学会が発行する雑誌です。

2年目の研修医の2週間の離島実習で何を学んだかを質的に研究しています。

対象は7名で半構造化面接を行い、面談内容はSCATを用いて解析しています。

 

その中で浮かび上がってきたのは、4つのカテゴリーと15個の概念です。

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それぞれの項目は納得できるものが多かったです。

病院勤めの私としても、臨床の時間の流れや検査偏重志向など考えさせられる部分はあります。だからこそ、自分自身の診療を振り返って考える必要性があるのだと思います。

一つだけ気になったことがあります。この論文の中で、島住民中心医療の一つ目の概念

・全人的医療の理解を通した共感的介入

は原著で、”Empathic intervention through whole-person understanding”と書かれております。

 Empathic  intervention  through  whole-person  understanding: Through interaction with the inhabitants, the residents  understood  the  diversity  of  their  cultural  lifestyles,
which led to a deep respect for their values and opinions about health. As one remarked, “I feel it is not appropriate to judge the patients’ conditions only from a medical aspect. I learned the importance of understanding their lifestyles, and considering
how they can lead safe lives in their contexts. I don’t know how, but I want to attempt this method in my hospital.” 

→患者背景、患者の生活感を理解すること、それらを”Empathic intervention”と訳していますが、果たしてこれがempathicなのか、しかもinterventionなのかは議論の余地があると思います。

患者背景を考えて診療することは、もちろん”当然”のことです。確かに、忙しい日々のなかでその比重が薄れてしまっている部分はあるかもしれませんが、その重み付けをすることは果たして”共感”といってよいでしょうか。

英英辞典では

Empathy=the ability to understand other people’s feelings and problems
とあります。
 
患者の感情や問題を理解すること、それと患者の置かれている状況を理解すること、それらを同一考えてよいかという課題があります。
 
とても示唆にとむ論文でした。
今後も引き続き考えていきます。

 

【用語の解説】

半構造化面接半構造化面接 (semi-structured interview)とは、主な質問と想定される回答に応じた枝分かれする質問は予め用意しておき、被面接者の回答に応じて、臨機応変に質問内容を追加したり、順序を変更したりしながら進める面接法である。

https://mumu.jpn.ph/forest/computer/2016/06/28/5633/

SCAT:Steps for Coding and Theorization(SCATのページ より)

質的研究では,主に観察や面接(インタビュー)によって,質的データ(言語記録) を作成し,それを分析します.その際,記録を分析して理論を書くということは,大変楽しい作業でもありますが,慣れない人にとっては困難な作業でもありま す.それは,質的研究には量的研究における統計学的手法のような定式的な分析手続きが存在しないためです.

そこで,多くのやり方 ではデータにコードを付し(コーディングと呼びます),それをもとに理論化を行います.しかし,そのコードがうまく付けられないという人もいますし,また,コー ドは付けられたのだけれど,そこから理論化(結論記述)に発展させられないという人もいます.質的研究に魅力を感じながらもそれに着手できないことがある のは,多くはこのようなデータ分析の難しさのためだといえます.

SCATはそのような分析の困難さという問題を克服するために開発された手法です.SCATは,マトリクスの中にセグメント化したデータを記述し,そのそれぞれに,

〈1〉データの中の着目すべき語句
〈2〉それを言いかえるためのデータ外の語句
〈3〉それを説明するための語句
〈4〉そこから浮き上がるテーマ・構成概念

の順にコードを考えて付していく4ステップのコーディングと,そのテーマ・構成概念を紡いでストーリー・ラインを記述し,そこから理論を記述する手続きと からなる分析手法です。この手法は,一つだけのケースのデータやアンケートの自由記述欄などの比較的小さな質的データの分析にも有効です.また,初学者が 着手しやすい方法です.(この手法は,現在のところ,日本人の開発した唯一の完全にオリジナルな「テクスト形式の質的データ」の分析手法でもあります.)