過去の振り返り①インターン十ヶ条 沖縄県立中部病院での日々

2016年1月、沖縄はまだ温かく長袖シャツで十分過ごせるくらいの気温でした。医師3年目も終わりに差し掛かった時期、翌4月から「チーフレジデント」という役職になることが決まった私は新しく入職してくる新研修医のために、「インターン十カ条」をいう基本原則のようなものを作りました。

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インターン十ヶ条

1. 体を一番大事に。休める時はきちんと休む。

2. 上司の声には素直に耳を傾ける事。

3. 患者の診断・治療に関わることは必ず上司に報告・相談すること。

4. 院内緊急コールは「我が一番早く」という意志で向かうこと。心肺停止時の迅速な胸骨圧迫は何よりも重要。インターンでも患者さんにとって最も有効なことを行えます。

5. 救急センター勤務ではどんなにプレッシャーがかかっても、「みんな、僕/私のことを思って鍛えてくれているんだ」と思うこと。

6. 救急センター初療の救急車コールが鳴ったら、走って取りに行くこと。さもないと、恐いシニアレジデントYが代わりにとって、激昂します。

7. 患者さんには敬語を使うこと。

8. 診察するときはカーテンを閉めること。

9. できれば、勉強すること。

10. 困ったことや嫌なことで直接言いにくいことは何でもチーフレジデントに相談すること

 

インターンの研修で最も重要なのは病歴聴取と身体診察、そして簡単な検査とそれに基づくアセスメント/プランです。これが、医療の基本です。なので、一年間でその基本を叩き込みます。

付いてきてください。

そうすれば、きっとどこでも通用する医師になれます。

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これは、入職してくる研修医に、ちょうど国家試験が終わることに届く冊子のなかに混ぜられた文章です。(卒業旅行で羽目を外さず身を引き締めよ、といわんばかりのタイミングで届きます)

今思うと、なかなか大変な研修環境だな・・・という思いを想起される内容です。

でも、忙しいといわれる沖縄県立中部病院の研修生活を、うまく、というかより良く過ごしていくエッセンスが入っているのでは、と今更ながら思います。

そして、口をすっぱくして言われていた「病歴病歴・・・身体診察身体診察・・・」についても触れられています。今でも、その文化は根付き続いているでしょう。

 

見学はこちらから

沖縄県立中部病院 卒後医学臨床研修事業

https://chubuweb.hosp.pref.okinawa.jp/unihawaii/

 

私は今、信頼関係について勉強していますが、研修中に先輩やチーフレジデントのように、絶対的に自分の味方になってくれる人の存在は、かなり大きいのではないかと思います。

 そして、先輩たちがNear Peer Teachingを行うResidents as Teachersとして、 Near Peer Role-modelとして存在していることが、本当の意味での屋根瓦教育になっているのではと、振り返ってみて思いました。

 

私事ながら、日本チーフレジデント協会:通称JACRAでも活動しています。

https://jacra-med.org/jacra-core-members/

 

 

僕にとっての医療面接とは

昨日、医学科4年生対象の第1回目の総合診療医学の講義が行われました。

僕自身は別業務で参加出来なかったのですが、議事録や振り返り、メールのやり取りをみていて、「医療面接」について、感じていたことが文字に現れてきましたので、記したいと思います。

 

 

僕にとって、医療面接は何か特別な時間のようにも思います。患者さんの言葉を通した会話というか…「困ってるんです。どうにかならないの?どうにもならないなら、どうできるの?薬は?」…いつも、そんな患者さんの声が、聞こえてきているようです。


医学の力で治せるものは治したいし、現時点ででにる最高、最大の医療を提供したい、でもそれだけでは解決できないものもある、そのようなときどうしたらいいか…


医療面接は限られた時間、両者の距離、対話、駆け引き、信頼、疑心、感動、怒り、不安、安心、つらさ、癒し…
そんな色んなものと感情が混在して、行なっている印象です。


心に触れることは簡単なことではなく、多大なる責任と覚悟が必要とも考えています。


医学教育の中で、僕はそれを伝えられる解答案は持ち合わせていません。ただ、態度では示そうとしています。「胸がくるしいAさん」ではなく、「Aさんが胸をくるしがっている」ということを。


やや関連しますが、最近、医療人類学について書かれている記事を読みました。
これは学問的に、生や死の意味を解釈し、理解することです。人にとってその意味を考えるとき、後ろにひとそれぞれに広がる世界があります。それがとても重要で、魅力的だと考えています。


磯野真穂
「医療人類学とは」
http://blog.mahoisono.com/whatismedicalanthorpology/

 

(関連)

https://twitter.com/to__mas/status/1278079827757592576?s=21


最後に
コミュニケーションはスキルなのか、と思うこともあります。態度のほうが、個人的にはしっくりきます。考え方、価値観、姿勢、責任感…もろもろを反映しているからです。


次の講義でも新たな発見がありそうです。

プライマリケア医の生涯学習:イスラエルの横断研究

 

 

Continuing Medical Education for Primary Care Physicians in Israel: A Cross-Sectional Study.

 

Shvartzman, P., Tandeter, H., Vardy, D., Matz, E., Heymann, A. and Peleg, R. (2013) Continuing Medical Education for Primary Care Physicians in Israel: A Cross-Sectional Study. Journal of Biomedical Education, 2013, 843691.1. Shvartzman, P., Tandeter, H., Vardy, D., Matz, E., Heymann, A. and Peleg, R. (2013) Continuing Medical Education for Primary Care Physicians in Israel: A Cross-Sectional Study. Journal of Biomedical Education, 2013, 843691.

https://www.hindawi.com/journals/jbe/2013/843691/

 

<コメント>

Hojat先生のチームが開発した、医師の生涯学習スケールをイスラエルプライマリケア医に調査した横断研究です。

 

<要旨>

医学の学位を取得することは、長期的な学習プロセスの始まりです。正式な勉強は終了し、継続的な医学教育(CME: continuing medical education)は個人の自主性に任されることになるでしょう。イスラエルのプライマリ・ケア医の生涯学習(LL:Lifelong Learning)とCMEを評価するために、Jefferson Scale of Physician Lifelong Learning(JSPLL)に基づいた自己記入式のアンケートを4,104人のプライマリ・ケア医に調査しました。回答したのは合計979人で、男性53.4%、平均年齢は51.8±8.3歳(範囲31~79歳)であった。ロジスティック回帰モデルでは、男性の性別(OR = 1.5, )、教職(OR = 4.5, )、地方部の診療所に勤務していない(OR = 0.6, )が生涯学習スコアを増加させることが示されました。その結果、生涯学習活動に従事する傾向が低い特別なサブグループに対応する必要性が示唆されました。政策立案者は、医師が都合のよい時に最新情報を入手できるように、自宅にある生涯学習リソースを利用できるようにすることも含めて、生涯学習活動への医師の関心を高めるための戦略を開発すべきです。また、プライマリ・ケア医は、生涯学習活動の促進要因となるため、様々な種類の教育活動に携わることをすすめます。

 

<JSPLLの意味>

  • The higher the score on the JSPLL, the greater the orientation toward lifelong learning.
  • 生涯学習への志向性の強さを表しているのでしょう。意欲、意思、方向性・・・という日本語でしょうか。

    f:id:Thomas1985:20200617103952p:plain

    JSPLLの具体的な項目の例

f:id:Thomas1985:20200617104031p:plain

結果1

教育機会、教育プログラムへの参画、学術的なポジションで差が明らかです。

家庭医学教育におけるメンタリング

MENTORING IN FAMILY MEDICINE EDUCATION

Curtis L. Galke and Jennifer W. Swoyer
 
<コメント>
メンターといえる人がいますか?
メンタリング重要ですね・・・
 
<要旨>

・教えること、コーチングすること、アドバイスすること、メンタリングすること・・・。

・メンタリングはこれらとちょっと違うはずです。メンタリングは、ある人にとっては何十年にも及ぶかもしれない時間の贈り物を投影しているのです。メンタリングとは「アドバイスをすること」だけではなく、メンティーを真に理解することでモチベーションを高め、エンパワーメントすることを意味します。それは、彼らがどうなるかを投影する機会をもつことにもなるのです。

・学術的な家庭医学の指導者として、指導者の在職時間の減少や、充足されていない後輩教員のポジションの低下が懸念されています。教育から企業のリーダーシップへの人材の移行は、憂慮すべきことかもしれません。専門家としての私たちは、どのようにして豊かな専門科としての価値をを伝えていくのでしょうか。私たちの耳学問がテクノロジー世代に生き残るためにはどうすればいいのでしょうか?

・メンタリングがキャリアの選択や指導、教員の定着、自己啓発に重要な影響を与える
・正式なメンターがいると自認している医師は50%以下である。それでも、ほとんどの家庭医は、憧れの先生、顧問、コーチの教えを省察することができます。
・家庭医学の教師としての私たちの使命は、ケアを求める人たちとの信頼と透明性に基づいた永続的な関係を築くために、学生や研修医を指導し、励ますことです。どうか、これからも指導、助言、コーチングを続けながら、メンターシップを受けられるように心を開いてください。メンターの関係は強力で特別なものです。割り当てられたものではなく、選択されたものであるべきです。自分自身を開き、その体験を双方向の関係性としてください。
・AFMRDは、今後数年間でメンターシップのリソースとプログラムの開発に取り組み、すべてのメンバーがこれらの努力に従事することを奨励しています。
 

薬剤熱:レビュー論文

 Patel, R.A. and Gallagher, J.C. (2010), Drug Fever. Pharmacotherapy: The Journal of Human Pharmacology and Drug Therapy, 30: 57-69. doi:10.1592/phco.30.1.57

https://accpjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1592/phco.30.1.57

 

<コメント>

たまには臨床的なネタを。

 

<要旨>

薬剤熱は間違って診断されることが多い、ありふれた病状です。薬剤投与時の発熱があり、候補薬物を中止すると消失します。薬物熱は 通常、発熱の他の原因が明らかにならない場合の発熱で疑われ、抗菌薬治療がすでに開始されている場合もあります。初めて薬剤を投与された感作性のない患者では、発熱の発現は大きくかわり、薬剤のクラスによって異なりますが、最も一般的には薬剤投与7~10日後に発現し、薬剤を中止すると急速に軽快します。早期診断により、不適切で有害な可能性のある高額な検査・治療介入を減らすことができる可能性があります。候補薬物による再投与は、通常、数時間以内に発熱を再発させ、診断を確定させます。再投与は議論の余地があり、より重篤な薬物反応の可能性があるため、行うとすれば細心の注意を払うべきです。薬剤熱の病態生理におけるメカニズムを解明し、薬剤熱の発症に関与していると考えられる多種多様な薬剤について、発表された報告を要約しています。薬剤熱における抗菌薬の影響には特に注意が払われるべきです。

 

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表1: 薬剤熱の原因薬物

 

抗菌薬系・・・多いですね。
葉酸とかも報告あります。

 

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薬剤熱のメカニズム

カニズム

・体温調節の変化;抗コリン薬・・・
・投与自体の関与;アムホテリシンBなど、
・薬剤の薬理作用;抗がん剤・・・
・特発的反応;麻酔薬・・・
・過敏反応;アロプリノール、抗菌薬など

共感の体現:医師の手当ての現象学的研究

Kelly, MSvrcek, CKing, NScherpbier, ADornan, TEmbodying empathy: A phenomenological study of physician touchMed Educ202054400– 407https://doi.org/10.1111/medu.14040

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/medu.14040

 

<コメント>

touchは一部、「手当て」と表現しました。他に、適切な訳があるかもしれません。

この論文は、非言語コミュニケーションにとって、重要な知見だと思います。

実際に患者さんに触れることの重要性・・・今回は医師のインタビューでしたが、患者さんの話も聞いてみたいですね。

※template analysisは初めてききました。

https://research.hud.ac.uk/research-subjects/human-health/template-analysis/what-is-template-analysis/

 

<要旨>

文脈
共感的な医師の行動は、改善された患者の転帰と関連している。共感を示す一つの方法として、手当てを含む非言語コミュニケーション(NVC: non‐verbal communication)の使用がある。これまでのところ、NVC、特に手当てに関する研究は医学の分野では比較的限られており、それが感情的で共感的なメッセージを伝える上で中心的な役割を果たしているのは驚くべきことだ。NVCに関するカリキュラム開発に役立つように、本研究では、手当てによるコミュニケーションの医師の経験を解明することを目的とした。

方法
解釈的現象学的研究を行った。新卒の医師と経験豊富な医師を含む、異なる専門分野の医師15名(女性7名、男性8名)が、それぞれの臨床現場から得た手当ての具体的な事例を詳細に説明した。インタビューは、参加者に文脈、触れた患者との関係、触れたときの身体的な経験などの詳細を正確に思い出すように促した。インタビュー(45~100分)はテンプレート分析で分析され、その後、弁証法的な質問のプロセスを経て、データと研究者の個人的な考察の間を行ったり来たりしながら、現象学的な先行研究に基づいて最終的な解釈をまとめた。

結果
参加者は、手当ての体験について、「接触を選択して誘い入れる」と「共感を表現する」という2つの次元を説明した。接触は個人的なものであり、壊れやすいプロセスだった。参加者は、接触が適切かどうかを判断するために、患者の非言語的な合図を解釈した。参加者は顔の表情や現在のボディランゲージを解釈して、患者の体験を意味づけした。参加者は感情を共有し、共感と存在感を示すために接触を使用した。参加者の接触の経験から、手当ては体現された共感的コミュニケーションの一形態であると考えられた。

結論
触れることは人と人とのつながりを確立することができる強力なNVCの一形態である。共感の現象学的な説明は、その具現化された主観的相互作用を強調し、医学教育における「手当て」への教育学的アプローチを理論的に豊かにし、共感への理解を深められ得る。

 

COVID-19パンデミック下におけるフェローシップ認定のためのオンライン臨床試験

Munshi, F., Alsughayyer, A., Alhaidar, S. and Alarfaj, M. (2020), An Online Clinical Exam for Fellowship Certification during COVID‐19 Pandemic. Med Educ. Accepted Author Manuscript. doi:10.1111/medu.14267

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/medu.14267

 

<コメント>

サウジアラビアからのオンライン臨床試験の報告です。

今は、freeで読めます。

視聴覚プラットフォームの作成工夫がポイントみたいです。

結果として、オンライン試験でも受験者の96%、試験管の91%が満足したと述べています。

 

<要旨>

COVID-19パンデミックの間、世界中でロックダウンに対する教育機関の様々な反応をみました。今後数年のうちに、これらの対応の結果を見ることになるでしょう。この重要な時期に混乱が起きているにもかかわらず、フェローシップ研修最終年度の候補者はまだ認定を受ける必要があり、筆記試験に合格した後は、これまで以上に早く認定されるべきであることは考えるべき課題である。